大層な名前をつけて、病気扱いしないでほしい。
 ほんの6500万年前まで、それが日常だったんだから。




 繁華街の路地裏。太陽が没し、ネオンサインの影に隠れると、とても表では見せられないような光景が繰り広げられることも不思議ではない。
 レンがのぞき込むと、そこには二人の男女・・・いや、正確には一人の男と、一人の女、だったものがいた。
 男は服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿で獣のように腰を動かし続ける。汗が飛び散るほど激しく上下に動いても、女はぴくりとも反応しない。ただただ、男の動きに合わせて揺れるだけだ。
 レンは少し疑問に感じたが、すぐに理由がわかった。暗くてはっきりとは見えないが、首の付近から人が噴出してはいけない量の鮮血を放ち、地面に暗い水たまりを作っていた。

「・・・お?」

 体勢を変えようと一度女から離れた男が、レンの視線に気付いた。
 すぐに顔を、そしてこれだけ運動してもなお大きく屹立するそれを、レンの方へと向ける。

「何だぁ?混ざりたいのか?女」

 ニヤニヤとした表情のまま歩み寄る男たち。明らかな犯罪行為をしていても、それを見られても捕まらない、逃げおおせる自信があるのだろう。
 同じ程度の自信はレンにもあった。逃げきる自信でも、警察に通報して事が終息する自信でもない。目の前の男を、確実に殺す自信だ。

「着込んでいるが、中は結構上玉じゃねえの」

 男が舐めるようにレンの身体を見回す。実際、厚手のコートに隠してはいるが、レンの身体は程良く引き締まり、つくところには脂肪が乗った、男を引きつける魅力的な身体をしていた。

「・・・つまらない」

 臆することなく路地裏へ足を踏み入れたレンが最初に口から漏らしたのは、ため息だった。

「は?」
「凶暴そうなダイナシックの匂いがすると思ったけど、大したことなさそうね」

 つまらなそうに奥まで向かい、全裸で倒れたまま動かない女性に、地面に落ちていた女性のものであろうコートをかぶせる。
 まるで興味を持たれていないと気付いた男は、その扱いに対する苛立ちを額の青筋に表した。

「そんな言い方からして、お前、俺が何のダイナシックなのか知ってるのか?」
「知らないけど、どうせ―――」
「ティラノサウルスだ」

 レンが答えるより早く男が宣言、同時に突き出た右腕が、レンの胸ぐらをつかみ、ビルの壁に叩きつけた。
 ティラノサウルス。恐竜で最大の知名度を誇る肉食獣は、暴君の名にふさわしい戦闘力を持ちながら、その巨体とは不釣り合いなほど小さな日本の腕を持つ。
 しかし、その小さな腕からは想像もつかない怪力を誇り、一説には片手だけで200キロの力を発揮できたという。
 人間の指から生えているとは思えない、鋭く頑丈な爪がレンのコートに食い込む。そのまま貫通して、奥の肉も貫き、さらに向こうのアスファルトに届いてもおかしくはない。
 彼女の身体が並の人間で、コートが防寒のためのものであれば。

「は?お前―――」

 男が感触の異変に気付くより早く、レンの右足が男の鳩尾を捉え、刹那のうちに突き放した。
 蹴り飛ばされ、反対の壁面に背中でひびを作る男に、状況は理解できても、原因は把握できなかった。
 なぜ、小柄な少女であるレンが、コートの全身に金属の装甲を縫いつけているのか。
 なぜ、プロキックボクサーの全力の一撃にも耐えうる自信を持つ自分が、少女の一蹴りでこんなにもダメージを受けているのか。
 わからないが、一つだけわかる。この女も、自分と同じ。人間を逸脱しかけている。

「お前も、ダイナシックか」

 レンは男とは対照的に、さして痛みなど感じていない表情のまま、癖のあるショートボブの髪をかき上げる。

「まあね」
「何者だ」
「なんだっていいでしょ。自分が何者かを考えるより、強い力と強い身体を持つ。それが・・・」

 コートのボタンを外し、首元から足先まで隠していた身体を、右半身のみ外気に晒す。
 筋肉で締まりながらもしなやかなラインを見せるボディスーツだが、唯一、右足首のみ人体では異常なまでに膨らんでいた。
 重量7キロ。口部分に鉄球を縫いつけた特製のブーツは、常人なら歩くことすら支障をきたす。しかしレンにかかれば、それを持ち上げ、左脚の軸のみで振りかぶり、

「弱肉強食の世界だ」

 自分の身長より高い位置で回し、男の頭蓋を粉砕することくらい造作ないことだった。

「・・・やっぱり、つまらなかったな」

 頭部を失った男の身体は重い音を立てて倒れ、路地裏の赤い水たまりをさらに広げる。これだけの凄惨な殺人事件が起きても、数メートル先の繁華街は何事もなかったかのように平和な時間を刻み続けていた。

「本当にこいつティラノだったのか?ティラノってもっと強いんじゃないのかよ」
「そいつはたぶん、アルバートサウルスだよ」

 コートのボタンを留め直し、動かない男の裸体を指でつついていると、不意に路地の入口から男の声がした。
 深夜の繁華街には不釣り合いな学生服に身を包み、短髪に切りそろえられた黒い頭は、どこかの高校の風紀委員といった風体だ。
 だが、二人の死体が倒れる路地裏で堂々とした微笑を崩さない態度、ズボンのポケットに入れたままの両手からにじみ出る殺気は、この男もただの人間ではないことを示していた。

「アルバート?何それ」
「ティラノサウルス科の一種ではあるけど、まあ大したことはない。君の敵ではないさ」

 アルバートサウルス。ティラノサウルスが台頭する10万年前の北アメリカにいた、ティラノサウルス科の恐竜である。
 動物の肉を切り裂くのに特化した鋸歯状の牙や、細身ながら強い力を有する前足等はティラノサウルスと同等である。さらに体長8メートルの巨体を時速40キロで動かす足はティラノを超え、この大きさでの速力を発揮できる生物は過去現在を含めて他にはいない。
 しかし、ティラノサウルス科最大の武器である顎は科の他種類に比較すると非常に細身であり、狩りをするには適していない。それ故に、アルバートサウルスはその脚力と怪力を持て余し、他の肉食生物が食べた残滓、もしくは他の要因で死んだ草食動物を食べる、腐肉食(スカベンジャー)であった。

「ちょっと見ただけでわかるなんて頭いいのね。じゃあ私が何者かもわかるってわけ?」
「もちろんさアンキロサウルス。その力も、技も、そして攻略法もね」

 学生服の男が言い終わるが早いか。いつの間に待機していたのか、上空から出現した別の男二人が、レンの前後に着地した。
 前に立つ男に比べると小柄な少年と呼んでいい男たちは、やはり前の男と同様の学生服に身を包んでいた。さながら、風紀委員長と風紀委員だ。違いを挙げるとすれば、両足の脛に日本刀のように銀色に光る刃を装備していることか。

「フッ!!」

 反射的に、前方に降り立った少年に右足を突き出す。当たれば奥の男諸共彼方へ突き飛ばす力を持つが、少年は通行人を避けるかのような軽い動きでレンの右足を回避した。
 すぐさま足をコートの中に戻すが、重石を積んだ右足はなかなか戻らない。身軽な少年ならば、レンの攻撃から元の体勢に戻るまでの間に、脛の獲物でレンの右足を根本から斬り落とすことなどわけもなかっただろう。
 しかし、少年は動かなかった。通行人が過ぎ去ったので元の位置に戻る事と同様に、レンの眼前にただ立つだけだった。
 後方の少年も動く気配はない。攻撃したところでコートに防がれることを知っているからか、あるいはレンを舐めてかかっているだけなのか。
 男たち三人の余裕をさらけ出す態度に苛立ちながらも、全身を護るコートに身を隠す直立不動のこの姿勢を維持し続けることが、今のレンにできる唯一の行動だった。
 防御は予め用意した装甲に任せ、たった一つの武器で戦う。それがアンキロサウルスの戦い方だ。
 アンキロサウルス。草食恐竜でありながら、戦車のように身体を骨質化した皮膚で覆い、尾にハンマーのような骨塊を装備したこの恐竜は、単純な戦闘力ならティラノサウルスにも勝ると言われている。
 最大の武器であるハンマーは30キロ以上あり、柔軟に動く尾の動きも相まって、最大の力で振ればその力は718メガパスカル。生物の骨を砕くために必要な力はおよそ100メガパスカルであることを考えれば、その一撃がどんな破壊力を発揮したか。6500万年前の北米大陸において、アンキロサウルスが生態系のどの位置に君臨していたかは、想像に難くない。
 しかしそれはあくまで大型肉食恐竜と一対一で相対したときの場合である。一撃必殺のハンマーが当たらなければ、ただの堅い獲物に過ぎない。今のレンも、男たちに弄ばれ、嬲り殺しにされるだけか。

(あんまり使いたくなかったけど・・・)

 レンが小さくため息をつき、コートに隠した指を動かそうとした時。

「勘違いしないでくれ。僕らは君と戦いたいんじゃない」

 奥の男が両手をポケットから出し、レンを制止した。

「逆だ。スカウトしにきたんだ」
「スカウト?バイトなら間に合ってるわよ」

 攻撃してこないとはいえ、集団で取り囲んで武器を見せつけてくるような男たちをおめおめと信用することはできない。軽口は叩きつつも、警戒は解かなかった。

「ダイナシックの罹患者は日に日に数を増し、対応して患者による犯罪も数と凶暴性を増し続けている。次第に人間は患者を忌避し、その鬱憤がさらに犯罪を助長する悪循環となっている。
 誰かが管理する必要がある。ダイナシック患者も、人間の価値観も」

 男の言うことはもっともだった。最近はテレビのニュースでも言われている問題だ。
 だが口にするのは簡単でも、そんなことは夢物語であることは、自分も含めて誰もがわかっていた。ダイナシック患者が人間であると心に言い聞かせたところで、自分とは異なる能力を有した存在を同類と認識する能力は人間にはなく、かといって警察程度が取り締まれるようなものではない。今は人権がどうのと訴える輩のせいで動いていないが、いずれは自衛隊や軍が武力行使することになるかもしれない。
 結局、知恵を発展させたところで人間も生物である以上、最後に頼るのは力になってしまう。それが生物の摂理で、弱肉強食の世界の真理。レンはそう思っていた。
 だが、目の前の男はそう思っていないらしい。強者が弱者を虐げるのではなく、互いに理解して、共存できる。自分たちの力で、それを成し遂げるという。
 理想論の詭弁だろうか。だけど男の口調と表情には、絶対的な自信が見えた。少なくともニュース番組のコメンテーターよりはよっぽど説得力があった。

「・・・言うわね。お茶くらい出してくれるなら、もう少し話を聞いてやってもいいわよ」
「ケーキくらいなら出そう。ようこそ、ダイナシッカーズへ」

 「グイ、ヴェロキ」と男が声をかけると、少年二人は機敏な動作で男の背後に下がった。
 敵意が去り、ようやく安堵のため息をついていると、歩み寄った男が右手を出してきた。

「相田ロクシ、デイノニクスだ。よろしく」

 差し出した右手の袖口から暗器でも飛び出してくるのではないか。一瞬警戒したが、無意味だと悟った。そんな卑怯な手を使うくらいならもっと早く、背後の二人に殺させることだってできた。
 それに、二人が奥に行ったこの状況なら、男一人を殺すくらいこちらにもできる。警戒はやめて、レンも右手を差し出した。

「羅口レンよ。とりあえずはよろしく」


    ※


 二人の死体と二人の少年を背に、路地裏で男女が握手を交わす異質な光景を、ビルの屋上から見下ろす男がいた。

「あいつら、だいぶ手駒を増やしてきたな」

 コンビニで買ったと思われる一口サイズの鶏の唐揚げを頬張りながら、常人より大きく見える目を細め、楽しそうに笑う。

「どうする?今なら四人ほど殺れるけど」

 その奥、屋上入り口の壁に身体を預ける女性は、四人の様子は伺わず、ただ腕を組んで目を閉じ、静かに男の言葉を聞いていた。

「・・・知ってるよ、あんたはそう言う闇討ちなんてしないって」

 後ろで縛った長髪を揺らしながら、男は女性に歩み寄り、唐揚げが二つ残った紙の入れ物を差し出す。

「食べるか?」
「食べる」

 女性は必要最低限の言葉と動作で唐揚げを受け取り、口に放り込んだ。





はい、というわけで既存の連載中と称している作品ほっぽりだして新連載を始めま

せん。


はい、何度目でしょうね。一話だけ書いておいて続きを書く気はあんまりないっていうあれです。

でも今までのディフェンスフォースや社畜戦隊に比べると比較的書く意欲はまだ持っているから本当に続くかもしれないというか、マテリアルパズルみたいなとりあえずいろんなキャラクターをわんさか出していくという私が一番苦手なスタイルの小説となっているのでまだ出したいキャラはいっぱいいるから続くかもしれません続かないかもしれません。


マテリアルパズルみたいというか、村田真哉作品みたいですよね。わかってる。自覚してる。みなまで言うな。というか途中から確信犯で似せた。

恐竜講座始めて私も恐竜知識が溜まってきたと勝手に思い、最近小説書いてないしこのムダ知識を使ってなんか書けないかと思って書いてみたらああこれアラクニドだ。

まあ生物のうんちくをひけらかしながら女の子がバトルするという基本スタンスは完全に一致なので開き直ってこの感じで行こうと思います。

ただし、アラクニドやキリングバイツが現生生物のものなので確定情報が多いのに対し、こちらは全部憶測ですからね。仮説どころか話を面白くするために誇張したり胡散臭い説採用したりすると思いますからね。動画もそうですが真に受けないでください。


ダイナシックとは何か。それは続きがあったら後々明かされるからここでは置いておくとして(字面と描写でだいたいわかるだろうけど)、何故ヒロインがアンキロサウルスなのか。これも後々明かそうと思ったけどそんなに大した理由じゃないからいいや。

かわいいからだ。以上。ツイッターのフォロワーさんにすごいアンキロサウルスキーがいたからだいぶ洗脳されました。

そしてデイノニクスは俺の嫁とか言ってましたがよく考えたら食われたい(意味深)とか思ってたのでデイノニクスは男だ。ってことでヒーローサイドに回しました。

肉食は男で草食は女とかぼんやり考えてますがこんなこと言って後々面倒になったら嫌なので言いません言っちゃったよ聞き流して。


というわけで、半分暇つぶしな小説でした。続いたら今後も読んでね。
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