UC―――アンノウン・クリーチャーが全て撃退され、その根元すらも絶たれ。地球には再び平和が訪れた。
 俺が、知らないうちに。




 北条研究所。この国で初めてUクリーチャーの存在を予測し、いち早く研究を始めた組織。対Uクリーチャー研究機関FUMAも、政府直属に編成されるまではこの研究所の実働部隊だったらしい。
 FUMAが解体されると、FUMAの人員は一部は再びこの研究所へと戻った。Uクリーチャーを呼び出すモンスタースポナーは破壊されたものの、他の知的生命体などが再度地球を襲う可能性は十分あるので、研究は続行するらしい。
 いつの間にかFUMAに入隊していた俺も、今更再就職活動も面倒だから研究員となったのだが。

「またバリウムか・・・」

 研究といえる研究はさせてもらえず、やることといえば検査に検査、それと検査。頭の中から足の先まで調べられてばかりだ。
 記憶のなかった間の俺はFUMA関東支部一課でエースパイロット並の活躍をしていたらしい。そのエースの秘密を解き明かす・・・にしては、あまりにも手をかけすぎる。
 とはいえ、俺も自分の体に疑問を持っていた。Uクリーチャー出現の数ヶ月後からモンスタースポナーの破壊までの数年間、まったくといっていいほど記憶がない原因は一体なんなのか。
 脳波に異常はない。心身ともに健康体そのもの。頭をぶつけたような痕跡も見つからない。周りの話からして、ストレスをため込んでいた様子もないらしい。
 空白期間に入る直前、俺は何をしていた?確か俺の住んでいた町にUクリーチャーが現れて、近所の住民と一緒に避難していたら女の子が・・・

―――君の―――男を、―なせ―わけには―――

 何か、あったような気がする。しかしいくら頭をひねっても、その次の記憶は彼女の泣きそうな顔だ。

「かーけるっ!」

 俺が精一杯記憶をたぐっていると、女性の甘い声と共に背後から抱きつかれ、思わずコップのバリウムをこぼしそうになった。
 この研究所で、俺をこんな声で呼ぶ人間は一人しかいない。

「雑賀・・・」

 雑賀真矢。俺と同じくかつてのFUMA関東支部一課で、ライドメカの操縦テクニックは俺より上だったらしい。
 当然俺は彼女のことを知らないのだが、気がついたときには目の前にいて、そして今に至るまでずっと馴れ馴れしくしてくる。

「もー、下の名前で呼んでって何度も言ってるでしょ?」

 戦闘時によくパートナーを組んでいたから、では説明が付かないほどフランクに接してくるので、俺は彼女と恋仲だったんじゃないかとも考えた。
 しかし、俺が気が付くと真っ先に「初めまして」と言ってきたし、本人を問いただしたときも「別にあなたとはそういう関係じゃないわよ」と否定した。
 じゃあなぜ。彼女は俺をここまで気にかけるのか。

「お、今日はバリウム検査ね!ほれ一気!一気!」

 素面でも飲み会のテンションを維持できる根性。こんな女と、俺が恋仲になるはずもない。
 「何なら口移しで飲ませてあげようか?」などといいだしコップを奪おうとする雑賀を突き放し、距離を離す。さすがにもう、我慢の限界だ。

「いい加減にしろよ、うんざりなんだよ!」

 俺が叫んでも、雑賀の口は満面の笑顔のままだ。しかし目元から笑顔がわずかに薄れたことに気づいた。構うものか。

「FUMAにいたときの記憶は全くないって言ってるだろ!今まで通りなのかは知らないけど、今の俺はお前のことが嫌いだ!だからっ・・・」

 嫌いだ。その言葉を口にした瞬間、胸の奥が小さく痛みを発したような気がした。どうして。俺は彼女を、心の底から嫌っているはずなのに。

「だから、せめて俺の記憶が戻るまでは、あまり関わらないでくれよ・・・」

 だから、二度と俺に近寄るな。そう言おうとしたのに、勝手に少し妥協したような言葉へと変わった。
 なんなんだ、この胸の痛みは。記憶のない間の俺が何か訴えているのか。

「・・・無理だよ」

 気がつくと、雑賀の表情はさらに変わっていた。口元の笑みは人を茶化すようなものではなく、何か懐かしいものを思い出すような憂いを帯びていた。

「FUMAにいた間の"伊達翔"の記憶は、あなたの中に残っていない。"忘れた"んじゃない。"消去"されたの。"思い出す"はずがないよ・・・」

 目尻に涙こそ浮かべないものの、少し背中を押すだけで決壊してしまいそうなほど、悲しげな表情だった。まるでさっきまでの、今までのテンションは空元気だったかのように。
 消去?彼女は俺の記憶喪失の原因を知っているのか?

「ウザいと思うのはわかるわ。私だってウザいって思うもの。だけど、それが彼との約束だから」

 雑賀はそう言うと振り返り、X線検査室の扉へと向かう。彼?彼女にここまでさせる男が、別にいるというのか?
 扉を開け、廊下へと出る寸前。雑賀は「あ」と足を止めた。

「ねえ、もうすぐさ・・・」

 笑顔に戻った雑賀がこちらを向くが、その言葉はすぐに途切れる。

「ごめん、何でもない」

 顔の前で手を立てて謝ると、今度こそ部屋を出ていった。一体なんだと言うんだ。それも"消去"された記憶なのだろうか。
 結局謎は一つも解決されず、俺は大きくため息をつき、バリウムを一気に飲み干した。


    ※


「いやいや、僕じゃありませんよ」

 白衣を着込んだ男は、苦笑混じりに手を横に振った。
 甲坂劾。俺や雑賀と同じくFUMA関東支部一課出身であり、科学技術開発部門に所属している・・・はずだが、今はもっぱら俺の検査を担当している。そもそも検査を言い出したのはこの男だ。
 雑賀がの言う「彼」の候補といえば彼くらいかと思い、検査結果を渡すついでに聞いてみたが、違うという。だったら他に誰がいるんだ。殉職したと聞いている一課隊長の風城真一か?

「じゃあ誰なんだよ」
「いやあ、それは真矢さんと彼の間の話ですから、僕が何か言うことはできませんよ」

 どいつもこいつもはぐらかしたようなことばかり言いやがって。

「まあまあ、真矢さんも翔さんのことを思ってやってるんですから、受け取ってあげてください」
「文字通りありがた迷惑なんだよ。だいたい雑賀が好きなのは"彼"とやらなんだろ?約束だから好きでもない俺に嫌々絡んでるんじゃ・・・」

 突然、穏やかな微笑みを消した甲坂に、言葉が詰まる。
 なんだ?俺そんなに変なことを言ったか?

「確かに真矢さんは"彼"を愛していました。ですがそれは翔さん、あなたへの愛でもあるんですよ」
「どういうことだよ。二股でもかけてたのか?」
「違います。とにかく真矢さんはあなたを想っている。それだけは信じてあげてください」

 甲坂がそこまで言うということは、嫌々やっているというわけではないのだろう。しかし結局明確な答えというものは得られなかった。
 何があったんだろうな。FUMA時代の俺と雑賀に。

「あ、そういえば、もうすぐ何かの予定はあるか?」
「はい?しばらくはずっとここで検査の予定ですけど」

 雑賀が言い掛けたこと、甲坂は覚えがないと。
 しかしまだ検査するのかよ。本当に何があったんだFUMA時代の俺。


    ※


 今日の予定が終わり、ようやく検査着を脱ぐことができた。私服に着替え、気分転換に町をぶらつく。
 町の景色は、戦闘で破壊された建物の修復や、UC教団とかいう胡散臭い集団のデモなどUクリーチャーの爪痕が残っているが、町ゆく人々の顔はおおむね明るい。Uクリーチャーの驚異から解放された高揚感を噛みしめている最中なのだろう。
 もっとも、Uクリーチャーとの戦いの大半を覚えていない俺には、そんな感情などほとんど理解できないのだが。

どんっ

 適当にぶらついていると、肩に小さな衝撃が走る。
 そしてぼろぼろと、いくつものガラス瓶が落ちる音。

「あ、ごめんなさい」

 中学生くらいだろうか。見下ろすと小柄な少女が慌てたように瓶を拾って胸に抱えた袋へと詰めていく。しかし今時の女の子にしては、服装が古代ギリシャのようなどこか不思議な服で、多少周りから浮いている。コスプレか?
 拾うのを手伝おうとかがむと、少女と視線が合った。俺の顔を見た少女は、「あ」と小さく声を漏らした。

「あってなんだ。俺を知ってるのか?」

 俺にこんな子供の知り合いはいないが、記憶喪失中に知り合ったのか?

「いえ、人違いでした」

 あはは、と笑いながら作業を再開する。なんだ人違いか。記憶喪失中の俺を教えてくれる人が見つかったかと思ったが。
 しかし、この少女は一体何個の瓶詰めを買っているんだ。しかも全部ラー油。よっぽどの辛党なのか?
 ともあれ、落ちたものは全て回収した。少女に渡し、軽く会釈して立ち去ろうとしたが。

「あの、拾ってくれたお礼に、お茶しませんか?」

 少女に逆ナンされ、俺は喫茶店へと連れ込まれることとなった。


    ※


 少女の名前はノイチというらしい。また物珍しい名前だが、最近はよくあるのだろう。

「いや、私が全部食べるわけじゃないですよ。休みを利用してこっちに遊びに来ることができたので、ついでに買ってこいって、友達の父の母の姉の義理の息子の方が」

 大量のラー油を聞いてみると、メロンソーダをストローで飲みながらそう返ってきた。妙に広い交友関係だが、どうやら田舎から旅行でやってきたらしい。この服はそこでの流行・・・なのか?さすがに海外ってことはないだろう。

「ああそうだ、これとは別に兄の上司の上官の父の部下の相方さんから同人誌を買ってきてって言われてたんだった。どこに売っているか知っています?」

 さらに複雑な交友関係がきた。兄の上司の・・・なんだって?
 そういったジャンルには疎いが、そういう店が集まる町は知っている。電車での行き方を教えると、ノイチは満面の笑顔で「ありがとうございます」と頭を下げた。
 笑顔の雰囲気はよく似ているが、雑賀とは性格が大違いだ。こんな奴ならよかったのに。

「・・・平和になりましたね。このあたりも」

 窓の外に目をやったノイチは、どこか懐かしそうな面もちで町ゆく人々を眺める。かつてこのあたりにいたのだろうか。

「まだわからんぞ、Uクリーチャーは休眠状態になっているだけで、また大量に出現する可能性もあるってニュースで言ってた」

 モンスタースポナーは破壊されたが、地球を狙う知的生命体は他にもいる。最初の敵は辛うじて撃退することができたが、弱った地球を狙おうとする存在はまた現れるだろう、そう考え、防衛組織を存続させている国はたくさんある。
 勝って兜の緒を締めよとはよく言ったものだ。こうして気を抜いている今も、Uクリーチャーたちは手薬煉を引いて狙っているのかも・・・

「大丈夫ですよ」

 突然、声色が変わったノイチに思わず目を見開く。
 メロンソーダを前に置いた少女は、見た目こそ一切変わらないが、目つきだろうか、どこか少女と認識することができない。

「地球は勝ったんですから。これからもずっと、やっていけます。
 もしも、どうしても限界が来たときは、その時は・・・」
「その時は・・・?」

 俺のおうむ返しには答えず、ノイチはまた幼い笑顔に戻る。

「何でもありません。お話しできてよかったです」

 ノイチはメロンソーダの代金を机に出すと、大量のラー油を抱えて店の出口へと向かう。
 自動ドアをくぐる、その直前。

「あ、私がいたこと、真矢さんには内緒にしておいてくださいね」

 と言い残して。・・・あれ、なんで彼女、雑賀のことを知ってるんだ?
 なんだかよくわからない出会いだった。まるで今までのことが夢だったかのような。
 あ、雑賀のことを知ってるなら、もうすぐ何の日か聞けばよかったな。

「・・・ああ、そうか」

 聞く必要はなかった、思い出した。


    ※


「か~~けるっ!」

 CTスキャン検査を終えた俺を待ちかまえていたのは、いつも通りのテンションの雑賀だった。

「今日はCTスキャンね。翔の輪切り画像、なかなか面白そうね」

 顎に手をやり、不敵に笑う。一体何が面白いんだか。
 抱きつこうとする雑賀をふりほどきつつ、自分のロッカーへと向かう。雑賀は想定通り、どこまでもついてきた。

「ねえねえ、このあと暇?私も仕事終わったし、どこか遊びに行かない?」

 いつも通りなら即答で拒否し、逃げるように研究所を出て行くところだが、今日くらいはいいだろう。
 だが、その前に。

「雑賀」
「なに?」
「誕生日おめでとう」

 ロッカーの中の俺の鞄から手のひらサイズのケースを取り出し、雑賀に向けて蓋を開ける。
 布に挟まれたリングには宝石も刻印もないが、シルバーでできたそれは明かりに照らされてまばゆく輝いていた。

「・・・・・」

 想定外のことだったのだろう。顔を作るのも忘れた雑賀は、指輪と俺の顔を交互に見続ける。

「私・・・今日が誕生日だって、言ったっけ?」

 そりゃあ、いつかは忘れたけど今頃・・・いや、聞いてない。
 俺と雑賀が会ってから今まで、彼女が誕生日について言及したことはないし、FUMA時代の記憶はない。
 しかし、俺は今日が雑賀の誕生日だということを確信していた。だから安物ではあるが、彼女が好きそうなアクセサリーを今日のために用意したのだ。
 最初はネックレスにしようと思ったのだが、よく見ると雑賀はいつも風車のようなアクセサリーがついたものを首から下げているので、指輪にした。

「聞いたことはないが、なんかわかったし、とにかく何かしら祝わないとって思ったんだ・・・っておい!」

 どうせいつものノリで笑い飛ばしながらセクハラをしてくるかと思ったが、今度は俺が戸惑う側になってしまった。
 指輪を見下ろす雑賀の目から涙がこぼれるところを、俺は初めて見た。
 そんなに嫌なことでもしたのか?

「ううん、違う。うれしいの。覚えててくれたんだって」

 いや、だからお前から誕生日についてを聞いた覚えはないんだが・・・

「うん。やっぱり、翔は"翔"だ」

 何を当たり前なことを・・・と俺が呆れるより早く、雑賀が俺の首に腕を回し、抱きしめてきた。
 またセクハラ・・・にしては、いつものセクハラ発言は付随しないし、何より俺自身が不快感を感じていない。たぶん、演技やいたずらではなく、雑賀の本意からの行動だからなのだろう。
 彼がなんなのかとか、FUMAにいた頃の俺は何をしていたのかとか、謎はまだ残っているが。
 彼女とはもう少し、うまくやっていけるかもしれない。





7月10日はウルトラマン第一話「ウルトラ作戦第一号」の放送日であり、現在でもウルトラマンの日として記念されてる日。そして円谷英二氏は自称7月7日生まれだったが、後の調査で戸籍上は7月10日生まれだったそうで、なんかもう出来すぎじゃないかとか思っちゃう素晴らしい日。

円谷洋平氏が「どっちでお祝いしてもいいじゃない」と言っていたので、じゃあ両方でお祝いしようじゃないか!と思ったら両方とも一日遅れになってしまった円谷英二生誕祭第二弾でございます。


ウルトラ作戦第一号パロはシノビでは前にやっちゃってるし、誕生日って要素を取ってこんな話になりました。本編中で真矢の誕生日をシノビに教えるみたいな伏線はっておけばよかったなーとか今更思ってももう遅い。

というか最初はオリオンと同じく本編途中の一エピソードを書こうと思ったんですが、あのラストを書いてしまった今、キャップをどう書いてもネタにしかならないと思ったので、脳内だけにとどめておこうと思ったリアル翔とのイチャコラを引っ張り出してきました。

佐里にも出てきてほしかったんですがノイチと立場かぶっちゃうし。彼女も時折里帰りしてるとは思います。

桃ラーを所望する友達の父の母の姉の義理の息子はさておき、同人誌が好きな兄の上司の上官の父の部下の相方が誰とはあえて言うまい。「私の国の王女」の一言で片づけられるんだけどこういうネタが好きなんです。


なお、この話の元ネタはピクシブにあったウルトラマンの後日談的漫画で、一部セリフを丸パクリしました。

すごくいいシーンなのでちゃんと自分の言葉にしたかったのですが、せめて今日までには書かないとと思い、時間がなくて手が回らなかった。本当に申し訳ない。

なんか思いついたら台詞だけでも変えたいと思います。


というわけで二度に渡りお送りした円谷英二様お誕生日おめでとうございます。こういうのができるのもウルトラマン2回書いてるおかげだね。

シノビの本編中追加エピソードは何個かネタがあるっちゃあるので、気が向いたらまた書こうと思います。
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://soranomukoue.blog50.fc2.com/tb.php/2204-ef794b4b