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「世界の価値」


 戦いは終わり、それぞれはそれぞれの道を歩み始める―――




 今日の仕事を終え、僕は刑務所へと足を向けた。

「・・・よう、劾」

 杉原善己。僕の親友で、かつてのUC教団と手を組んで犯罪行為に及んだ男。現在は拘束され、この暗いコンクリートの中で生活している。

「元気そう・・・とは言い難いかな」

 研究することを何よりの生き甲斐としていた彼がそれを奪われ、少しやつれた顔には生気が宿っていない。麻薬を取られた中毒者・・・とは言い過ぎか。

「まあ、雑誌を読めるから退屈はしないけどな」

 善己が見せるのは有名な月刊科学雑誌だ。僕も退屈な時には読むが、善己なら一日で一字一句覚えてしまうだろう。

「聞いたぜ、Uクリーチャーの発生源を破壊したって。これで平和になるな」
「まあな。君は残念に思っているんじゃないか?」
「まさか、仮にもFUMAの隊員だぞ。平和になって嫌がるわけないだろ」

 言葉ではそう言っているが、本心では真逆のことを思っていないこともないだろう。
 宇宙から、異次元からの脅威は今後現れず、新たな研究材料が今後現れないということになる。Uクリーチャーに対処する新兵器開発も必要なくなり、俗にUC特需と呼ばれる経済発展、科学発展も下火に向かっている。科学者にとってはつまらない限りだろう。
 だが、勢いが削がれたとはいえ、人類は発展を止めようとはしない。

「研究を、してみたいとは思わないか?」

 つまらなそうに雑誌を流し読みしていた善己の目が止まる。

「俺は犯罪者だぞ、今更何をさせる気だ」
「君の作ったスーツを土木作業用パワードスーツとして利用したいという会社がある。量産できるよう君に研究を続けてほしいそうだ」

 善己が作ったスーツ、装着者の筋力を強化し、飛行も可能。おまけに内蔵しているレーザーは様々な物を破壊可能。コストさえ抑えられれば、必要とする分野はいくらでもあるだろう。
 まるでアニメの人型ロボットだ。彼の一つの発明が、人類の歴史に新たな革命を起こすのかもしれない。

「・・・まったく、人類ってのはしぶといな」
「同感だね」

 善己が笑い、つられて僕も苦笑する。
 僕達は新たな段階へ進む。ウルトラマンがいなくても、人類は変われるということを証明するために。

(お二人は、何をしていますか・・・?)


    ※


 「Data has deleted」という表示と着々と増えるゲージを眺めながら、わたしはふと感慨に耽ってしまいました。
 真矢さんが撮影した動画はもちろん、ライドメカの技術、UCの研究記録、数年間Uクリーチャーの為に蓄積されていった叡智が、わずか数分で白紙に戻っていきます。
 Uクリーチャーがいなくなった世界、各国が防衛隊を存続、軍と統合など今後の身の振りを決めていく中、FUMAが選んだのは解体という道でした。
 ほんの一部の技術は生活発展のために存続しますが、その多くは破壊、殺戮のためのもの。残していたって戦争をより激しくするだけ。ならば封印すべきという意見に、反対するものはほとんどいなかったと聞きます。
 他より激しいUCとの邂逅で、どの国よりも対UC戦技術を育んだ国は、これで一気に後進の後進になってしまうでしょう。でも、それがこの国なんじゃないでしょうか。
 やがてゲージが右端にたどり着き、愛用してきたコンピューターのデータは抹消されました。これでわたしのFUMAでの仕事はおしまい。もう、この星でやるべきことは残っていません。

「・・・そろそろ、来る頃だと思ってました」

 コンピューターを閉じるとほぼ同時に、わたしの背後に光と共に、男の人が現れます。
 たった一夜、一度限りの出会いでしたが、その顔は忘れるはずもありません。

「もう僕のことなんて忘れてるんじゃないかと思ったよ」
「わたしがそんな酷い女に見えますか?時雨さん」

 時雨来人さん、もといグレセント人ライテラ。滅亡の危機に瀕している惑星グレセントを救うべく、こんな辺境の星まで嫁探しにやってきたヒューマノイドUクリーチャー。
 そして、わたしの初恋の男性。

「・・・あれからこの星の様々な場所を巡って、いろんな地球人と交流した。何人か理想の女性はいたけど、僕を異星人だと知るとみんな離れていった」

 地球人もグレセント人も人体構造は同じらしいですし、人を好きになるのに星は関係ないんじゃないかと思ったのですが・・・私の意見ってかなり少数派なんでしょうか。

「それに、どれだけの女性と会っても君の顔が忘れられないんだ」

 ふ、二人きりの部屋とはいえ、そんな恥ずかしい言葉をさも当然のように言わないでください。グレセントとは文化が違うんでしょうか。
 まあ、嬉しくなっちゃうわたしもわたしですが。

「前に言ったとおり、今度は真っ向から言わせてくれ。君が好きだ。君に僕の星に来てもらい、共に生きたい」

 前回の騙して拉致するような形ではなく、真正面に立った時雨さんが誠意を持って頭を下げます。
 そんなことをしなくても、私の答えはとっくの昔に決まっているのに。

「私でよければ、よろしくお願いします」

 地球に未練がないかといえば嘘になります。真矢さんや劾さんたち友達、地球でまだ行ったことのない場所、研究したい分野、あの小説の続き。
 でもそれを天秤にかけても、グレセント救済は重要で崇高な行動・・・はい、嘘です。私が時雨さんと一緒にいたいだけです。
 わたしは時雨さんの手を握り、共に宇宙船の場所に向かいます。

(そういえば、真矢さんと翔さんは、どうするんだろう・・・)


    ※


 戦いに正義などなく、それに身を投じたものはすべからく何かしらの不幸が訪れる。戦いが終わった今、ハッピーエンドなんてあり得ない。
 いや、ちょっと違うかなこれは。

「これでここのカレーも食べ納めか。結構好きだったんだけどねえ」

 FUMA解体が決まり、食堂で最後の食事を採る私と翔。思えば、あれだけ仲良く過ごしていたけど一緒にご飯を食べることなんて今までなかった。

「そうだな、最初で最後に一緒に食べる飯がこのカレーがでよかった」
「何よ最後って。これからまた色んなところに行けばいいじゃない」

 またアホみたいなことを言う、と思ったけど、心の奥では察しがついていた。ノイチが何も言わないことも、そういうことだろう。
 会話が途切れ、無言でスプーンを動かすこと数分。翔が静かに口を開いた。

「真矢、俺はM78星雲に帰るぞ」

 翔の口振りはちょっと実家に帰る程度のものだったけど、そういう問題じゃない。
 言われてみれば当然のことだ。Uクリーチャー討伐のために派遣されたウルトラマンが、Uクリーチャーのいない星に居続ける理由はない。
 任務で派遣されたウルトラマンが、任務を終えて星へ帰る。至極当たり前な行動だ。

「・・・・・」

 当たり前だとわかってるんだけど、私は何も返すことができなかった。
 引き留めてどうする。淡泊に別れを告げることも難しい。「さっさと出てけ」なんて突き放すこともできない。
 いろんな思考、いろんな言葉が頭の中を駆けめぐる中。

―――真矢さん

 ノイチが小声で口を開いた。おそらく翔には聞こえない、ひそひそ話だろう。

(なによ)
―――来ませんか、一緒にM78星雲に

 一瞬、サラダのキャベツが気管に入りそうになった。
 何をアホなことを、と思いかけたが、ノイチの口振りはいたって真面目で、無茶なことを言っているんじゃないと表情で語っていた。

(できるの?)
―――前例はあります。現地で一体化した生命体と魂まで融合して、その後もウルトラマンとして生活する。別宇宙のヘリオス兄さんもそうでした

 言われてみれば、以前出会ったウルトラマンヘリオスこと里中ミサさんも一体化してそのままでいた。
 結果、あちらは恋人兼師弟になっている。こちらがノイチと融合すると、恋人兼兄妹・・・めんどくさっ。
 だけど、歳の取り方がまったく違うシノビと、同じ時間をすぐ側で生きられる。それがどれだけ魅力的な提案か。

「どうした?」

 いつの間にか翔の方を凝視していた。あわてて視線をカレーに戻す。
 おそらく彼は、私が一言「一緒に行く」と言えば、喜んで頷くだろう。私にとって彼が重要な存在であるように、彼にとっての私も大切な存在のはず。
 だけど私が、これ以上彼に依存していいのか。たかが一人の地球人がつけあがり、ウルトラマンという存在となってしまってもいいのか。

(・・・ごめん、ありがとう。ノイチ)

 カレーをさらえ、水を飲み干し、一息ついてから翔に答えた。

「わかった。さよならね、シノビ」

 ヘリオスとミサさんが融合したのは、形はどうあれレキさん=ウルトラマンオリオンを好いている気持ちが二人に存在したからだろう。だからヘリオスが存在の半分を女性にしても、ミサさんが里中ミサをヘリオスの仮の姿になり下げても、その芯がぶれなかったからだ。
 私はきっと、ノイチと融合することはできない。彼を好きなのは、紛れもない「雑賀真矢」という一個の存在なのだから。

―――わかりました

 ノイチは少し寂しそうに、だけど満足げに頷いた。つまりはノイチともお別れということか。少し寂しいような・・・
 あれ、ノイチが一体化したのって私の魂が損傷しているからとか言ってたけど、分離して大丈夫なの?

―――あー、実を言うともう数ヶ月前には修復は終わってるんです。真矢さんと一緒にいるのって楽しいからなかなか言い出せなくって・・・

 こいつ・・・といいつつ、楽しかったのは否定できない自分がいる。
 翔と一緒に皿をカウンターに戻し、休憩室でジュースを飲み、何気ない世間話をして。
 いよいよその時が来た。

「・・・ふう。直接この体で会うのは初めてですね」

 ネックレスから光が溢れると、今まで頭の中で響いていた声が直接鼓膜を刺激するように聞こえ、脳裏で嫌というほど見ていた少女が目の前に立っていた。長いこと一緒にいた相手なのに、なんだか新鮮な気分。

「今までありがとう、ノイチ」
「な、何言ってるんですか!お世話になったのはこっちの方ですよ!」

 初めて対面するけど、複雑な言葉はいらなかった。互いに頭を下げるだけで十分だ。
 問題は、もう一人の男。

「・・・・・」
「・・・・・」

 またもどんな言葉をかけるべきか迷い、気まずい沈黙が漂う。
 その気まずい空気の間に立たされるノイチ、ごめん。

「あ、私友達の祖母の姉の義理の息子から帰るとき桃ラー買ってきてって言われてたんだった!先行ってるね兄さん!」

 なんだその微妙に遠い交友関係!なんでM78星雲で桃ラー知られてるんだよ!
 私がツッコミをするよりも早く、ノイチは休憩室からそそくさと出て行った。金持っているのかとかその服は目立つとか問題はさておき。

「真矢」

 鈍感な翔も、気を利かせてくれたって気づいたのだろう。先に口を開いたのは彼だった。

「最後に一つ、頼んでいいか?」

 一体なんだ改まって。

「こいつ、翔のことを頼む」

 翔は自分の胸に親指を立てる。翔はあんただろ・・・と思ったけど、忘れてた。伊達翔とはシノビが体を借りている地球人だ。
 シノビが信頼して、自身の体を預けるほどの男だ。故郷に帰っても気がかりなのだろう。だからもう一人の信頼できる女に頼むわけだ。
 「頼む」とは何とも曖昧なお願いだが、十分だ。

「わかった」

 私は頷き、目を閉じて翔に口づけをする。
 ほんの数秒の軽いキスだったけど、終わって口を離すと。
 そこに立っていたのは、翔だけど翔ではなかった。

「・・・あれ、俺は確か・・・君は?」

 顔はもちろん、口調も私の知る翔にそっくりだ。だけど私は彼を知らない。彼もどうやら私を知らない。
 シノビの話だと、本来の伊達翔の魂は体の奥底で深い眠りについていて、私とノイチとは違って常にシノビが体を動かしていた。だからこれまでの戦いも、ウルトラマンのことも、私のことも知らないのだろう。
 一抹の寂しさが涙腺を刺激し、目元に涙が浮かんでしまう。だけど目が覚めたら知らない女が泣いているなんていう状況、彼が混乱するだけだし、"彼"も安心して帰れないだろう。
 目尻の涙を拭い、できる限りの満面の笑顔で右手を差し出す。

「初めまして」

 私は、私の初恋の男とよく似た彼と。
 この星で、新しい人生を始めよう。





というわけで、今度こそウルトラマンシノビ、完結となります。

去年の1月から開始すること1年半。さすがに感慨深いものがあります。ラストの真矢が泣きそうになるシーンを書きながら私もちょっと泣きそうになりました。

特にこのラストは開始前から想定していたラストだっただけに、感動もひとしおというか。


当初の計画だと最終回でラストバトルと真矢と翔の別れをやって終わりでしたが、佐里のエピローグを書きたいと思い、こんな形式になりました。

なので当初から計画していたのは3つめの真矢ですが、この話のメインは2つめの佐里です。なんにせよ劾はおまけです。


1年半かかり、かなりグダグダになったこともありましたが、やっぱりこの物語書いてよかったって改めて思ってます。

前作ウルトラマンオリオンは「俺はこれだけウルトラマンが好きなんだ!」みたいな思いを詰め込んで作ったものですが、今回は「俺はこれだけのものが作れるんだ!」といったウルトラマンへの感謝を込めた作品になったかと思います。

キャラクター個々ではオリオンの方が好きですが、世界観や物語全体としてはこちらの方が好きです。どちらも自信作ということには変わりありませんが。

まあ、積もる話は次に投稿する座談会と解説にて。
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