「繰り返す戦い」


 Uクリーチャーが現れれば、人は必ず不幸になる。
 それがどんな人間でも、どんな形でも―――

「できなくはないんだ。ただ火力発電所並の施設と、日本で一日に作られる電気の半分程度を消費してようやく一発といったところだ」

 FUMA関東支部二課が出した結論は、「シュリウムの人工的な再現は不可能」だった。
 仮に作ろうとすれば予算的に、国民の理解的に壁は険しく、そうやってやっと一回撃って倒せるUクリーチャーは一体。さすがに割が合わない。

「そっか・・・残念だな」
「だけどいいものだよ。粒子と光子両方の性質を持っていて、空気抵抗による減衰もほとんどない。この物質自体は破壊光線だけど、応用すれば新たなエネルギーとして活用できるかもしれない。日本の未来は明るいぞ、劾」

 FUMA関東支部二課、杉原善己。主にUクリーチャーの残す未確認物質の解析を担当する男で、僕とは高校時代からの親友だ。

「そうか、忙しいだろうけど引き続き解析を頼むよ」
「言われなくても。こんなおいしいもの誰が手放すかよ」

 善己はウルトラマンの存在を知らない。「以前メディアに姿を現した銀色の巨人」は当然知っているが、それが人類に味方をする、他のUクリーチャーとは一線を画すものだということは、一課内での秘密だ。
 当然シュリウムも「最近検出されるようになった未知の物質」として渡していて、「銀色の巨人が出していると思われる」ことは伝えていない。研究大好きな善己がそれを知ったらさらに喜ぶだろう。それだけに少し心が痛い。

「そろそろ、当直交代の時間だから」

 善己に手を振り、僕は研究室を後にする。

「それにしてもすごいよなUクリーチャーは。俺もUクリーチャーになれたら・・・」

 ドアを閉める直前に聞こえた冗談みたいな言葉を、僕はもっとしっかり聞いておけばよかったと後悔することになる。


    ※


「不審者って・・・Uクリーチャーじゃないんですか?」

 後日、ブリーフィングで挙げられた案件は、いつもとはやや毛色の異なるものだった。

「はい、えと、ポイント215付近で多く寄せられている情報はUクリーチャーだというものですが、まだ地球人によるものだという可能性も捨てきれないとのことです」

 佐里さんの言葉も煮えきらないが、モニターに映される通報内容も的を得ないものばかりだから仕方がない。
 「黒いコートを着たUクリーチャーが夜に歩き回っていた」「飼っていた猫がUCに殺された」「人型ほどの怪獣が塀を壊した」「宇宙人らしき奴が車のフロントガラスを割った」等々。地球人サイズのUクリーチャーということは確かだけど、その姿をはっきり見たものはいない。

「あ、待ってください。その上から四番目の通報文」

 だけど、流し読みしていくとその文章の中には確かに人外と思われる箇所があった。

「腕から光線を出して鳩を撃ち落としたか。確かにただの地球人とは思えない内容だな」

 僕の指摘が風城キャップをうなづかせる。もちろん、近年のUクリーチャー頻出でおびえる民間人がただの投げた石ころを謎の光線と見間違える可能性もないことはない。
 だけど可能性が少ないからと、FUMAが動かないわけにはいかない。

「案外、誰かがトリニティバスターを勝手に持ち出して暴れているだけかもな」

 翔さんの発した一言が、CICを一瞬凍り付かせた。
 ウルトラマンの映像が漏れた一件以来、翔さんはこの中に裏切り者がいるんじゃないかという疑心にかられっぱなしだ。
 もちろんTバスターは厳重に保管され、目撃情報の時間に全員のTバスターがCICにあることも証明できる。だけどそれだけでは翔さんの疑いの目を晴らすのは難しいようだ。
 睨んだ目を閉ざさせたのは、真矢さんの拳骨だった。僕も佐里さんも、キャップでさえ疑う翔さんだけど、真矢さんだけはそんな目で見ようとしない。それはやはりあの二人が・・・

「どうした?甲坂」
「いえ、なんでもありません」

 邪な考えとイメージを振り払うために両頬を叩いていると、さすがにキャップから不審がられた。
 もう真矢さんをそんな気持ちで見るのはやめたんだ。今は日本防衛に集中しろ、甲坂劾。

「疑うのは勝手だが、職務は全うしてもらう。現地の警察と協力してポイント215を調査する」
「アイ、サー」

 翔さんは右手を額に当てるが、睨みつけるような眼差しはそのままだった。


    ※


 閑静な住宅街だけど、今はUクリーチャーに怯える住民が半分、一目その姿を見たい、あわよくば捕まえたいという好奇心旺盛な住民が半分。いい意味でも悪い意味でも大騒ぎだ。
 しかし僕と翔さんが聞き込みをするも、出てくるのは通報文と似たような情報ばかりだ。ちなみに真矢さんが公園に停めた《ウッドチェイサー》で探査、キャップと佐里さんが本部で指揮を執っている。

「甲坂よりウッド、目標が破壊したとされる塀の跡に来ました」

 通報にあった場所は、車の通行の邪魔になる部分以外は瓦礫が散らばったままだ。その家の人に伺うと、真上から両腕を降り下ろして破壊したという。確かに放射状に散らばった破片は、車がぶつかったとは思えない。かといって人間の力で壊せる代物でもない。
 Tバスターのイエローグリップで、破片を解析する。いくつかの金属粒子が付着しているけど、生物の痕跡は見つからなかった。金属装甲を纏ったUクリーチャーか、ロボットか。

『伊達よりウッド、撃たれたという鳩の死骸を解析した。やはり光線のようなもので焼き殺されたと思われる』

 破片のスキャン画像が映っていたモニターに、翔さんと鳩の死骸のツーショットが映る。続けてワイプ画像で『グロいもの見せるなアホ!』というクレーム。

「シュリウム反応は出ましたか?」

 Uクリーチャーで光線といえば、真っ先に思い浮かぶのはやはりシュリウムだ。再現はできなくても検出自体はTバスターでもできる。
 だけど翔さんは、

『あ?んなわけないだろ』

 反応を調べていないどころか、その前から頭ごなしに否定した。
 真矢さんの『何でもいいから一度調べなさい』という言葉に渋々解析したが、やはりシュリウムではないという結論が出た。

「どうして、シュリウムじゃないとわかったんですか?」
『そりゃあ・・・勘だよ』

 目を泳がせながら、適当に答える翔さん。さらに追求しようとすると、『サンプルを回収して次に行く。以上』と一方的に通信を切られた。

「・・・怪しい」

 現状、ウルトラマンをこの目で見たのは真矢さんだけだ。当然シュリウム光線が放たれる様も彼女だけが知っている。
 なのに翔さんは、まるでシュリウム光線を知っているかのような反応と、何かを隠す素振りをしていた。
 証拠はない。だけど彼の言動を考えれば、一つの可能性は浮かぶ。

「翔さんが・・・裏切り者?」

 ウルトラマンやシュリウム光線の映像を他国に流して利益を得たか、Uクリーチャーと繋がっているか。どちらにしても、裏切り者にはシュリウムを詳しく知る機会はある。逆に鳩を殺した光線が何か知っているから、シュリウムではないと確信していたのかも。
 考えてみれば、誰よりも裏切り者を疑う様子も、裏を返せば自分が疑われないようにするための演技かもしれない。事実誰も、彼を疑おうとはしなかった。推理小説で探偵が犯人だなんて、誰が思うだろうか。

「いや、まだ証拠がない」

 なら、見つければいい。裏切り者じゃないという証拠が見つかれば、自分の猜疑心を恥じるだけで済む話だ。どちらにしても、翔さんを調べる必要がある。
 翔さんは鳩の死骸を調べていた。その場所へ向かい、物陰から様子をうかがう。
 翔さんは死骸について近くの住民に話をした後、電柱にもたれて休憩をしているところだった。
 ペットボトルのドリンクを飲み干すと、Tバスターを取って通信を開く。普通の通信ならこちらにも誰と誰が通信中という情報が届くが、手元のTバスターには何も映されない。プライベート通信だろうか。

「なんだよ、真矢」

 ここからでは通信相手の声は聞こえないけど、真矢さんらしい。プライベート通信する相手だなんて・・・いかんいかん。

「は?ノイチが?ああ・・・」

 ノイチ、とはなんだろう。Uクリーチャーに関することか、二人の間で通じる隠語か。

「なるほどな。確かにただのUクリーチャーじゃないと思ってた。疑似ウルトラマンを作れるんだ、それくらいは余裕だろうな」

 疑似ウルトラマン?どうやら明日のデートの約束ではなく今回の事件の話らしいけど、どうして僕らの知らない情報を共有しているのか。
 もしや、真矢さんも・・・?

「あるぜ。M78星雲での訓練でつけるサポーターみたいなもの、戦闘力を上げるもの。噂じゃ惑星サイズのものを斬り裂く力が手に入るってのも聞いたことある」

 疑惑は確信に変わった。翔さんは裏切り者どころか、Uクリーチャーだ。そして真矢さんは翔さんに諭されて裏切っているか、彼女自身も・・・
 Tバスターのレッドグリップを握り、銃口を翔さんに向けようとして。

『CICより総員、上空から小型物体が降下してきます!』

 佐里さんの声に上を見上げる。春先のまばらな雲の間から、飛行機雲のような白い筋を立てて何かが降りてくる。
 それは僕や翔さんに程近い地点に着地すると、人間とほぼ同じサイズで、銀色の金属装甲を全身に纏っていることがわかった。
 どこに目があるのかわからないが、Uクリーチャーは顔を翔さんに向けると、右手の平をそちらに突き出す。
 刹那、手の中心が光り、光線が放たれる。後一歩翔さんが避けるのが遅ければ、砕けたのは電柱ではなく翔さん自身だっただろう。
 あれ、どうしてUクリーチャーが翔さんを襲っているんだ?彼も同じUクリーチャーのはずなのに・・・

『劾さん!何してるんですか!』

 佐里さんの声で我に返った。そうだ、今は傍観している場合じゃない。キャップも言っていた、疑うのはいいが任務は全うしなきゃ。
 Uクリーチャーが翔さんに気を取られている隙に、背後に回って押さえ込む・・・つもりが、背中に目がついているのか突如放たれた後ろ蹴りに防がれた。
 間一髪伏せて避けられたが、続けて突き出された左手が光る。両手から光線を出せるのか。
 だけど光線の対策もなしに突貫したわけではない。Tバスターのブルーグリップの引き金を引き、周囲に電磁シールドを展開する。光線を完全に防ぐほどの性能ではないけど、エネルギーを減衰させるだけでも十分だ。
 若干速度の落ちた光線を頭を動かしてかわし、突き出された左手を絡め取る。Uクリーチャーとはいえ関節構造は同じようで、アームロックで動きを封じることができた。
 痛みからかぷるぷるとふるえる頭部。その下、首の部分は金属装甲に覆われていないのか、インナースーツのような布が顕れている。人間でいうところの延髄を狙い、ブルーグリップの電磁ナイフを構え、

「待て!劾!」

 翔さんの声に動きが止まった。
 なぜだ、Uクリーチャーを排除するのが僕らの責務だ。それを止めるということは、やはり翔さんは・・・

「こいつは、Uクリーチャーじゃない」

 どんな言い訳をすると思ったら、変なことを言い出した。これがUクリーチャーじゃなかったらいったいなんだと言うんだ。
 翔さんはこちらに歩み寄ると、電磁ナイフを頭部の装甲の隙間に突き立て、西瓜を切るように甲冑のようなそれを開いた。
 内部から現れたのは、Uクリーチャーじゃない、それどころかあまりにも予想外な顔だった。

「善己・・・」

 つい先日、FUMAの二課研究室で会ったばかりの男が、知らない甲冑を身に纏い、僕の柔術を受けていた。

「忘れてたよ、お前射撃や操縦は辛きしなのに、白兵戦だけは異様に強かったな」

 苦悶の表情を浮かべながら、善己は空いた右手で僕の腕を叩く。正体を明かしたせいか、僕が手を離しても逃げようとはしなかった。

「どうしたんだ・・・その服は」

 善己の顔を見ても、まだ実感が湧かない。Uクリーチャーだと思われていた存在が同じFUMAの親友だったなんて。
 二課で密かに開発されたパワードスーツの性能実験。そんな答えを期待しながら善己の言葉を待っていたが。

「UCの技術を応用した装備、貴様UC教団か」

 トリニティバスターを善己に向けた翔さんが、代わりに答えた。
 違うと言ってくれ、頼む。僕の心の中の精一杯の叫びも、善己の首肯で打ち砕かれた。
 UC教団。Uクリーチャーを神と崇め、防衛隊を悪魔とするテロリズムの強いカルト宗教。近年日本に上陸し、信者を獲得しているらしいが、まさかFUMAの中にも信者がいたなんて。
 噂ではUクリーチャー自体も裏で関わっていて、技術提供もしているなんて話を聞く。善己のその鎧は、Uクリーチャーから技術を得たのか。

「別に神とか悪魔とかユートピア・クリエイターとか非科学的な考えはどうでもいい」

 善己は地面に転がる、二つに割れた仮面を見下ろし、手のひらを向ける。甲高い音と共に光線が放たれ、仮面が無数の破片となって飛び散った。

「俺はただ、Uクリーチャーの力が欲しい。地球よりも遙かに高度な技術、知識、世界。地球人でいたら一世紀かけても拝むことのできない景色がそこにはあるんだ」

 手のひらの発射口を見て恍惚の表情を浮かべる善己。その瞳には、狂気にも似た感情が浮かんでいた。
 善己のような生粋の科学者なら、見たことのない技術や新発見は垂涎の的だろう。僕だってUクリーチャーの光線や能力がFUMAで再現できたら・・・と思ったことはある。
 だからって、そんな鎧を着込んで、自らUクリーチャーになろうなんて僕は思わない。

「何にしても、君がやったことは器物損壊、生物虐待だ。警察に行こう」
「なんだ、劾は理解してくれると思ったんだけどな。邪魔するんだったら・・・」

 僕の眼前に突き出された善己の腕が、白く発光を始める。たとえ親友であっても、もう僕の声は彼に届かないようだ。
 いや、親友だと思っていたのは僕だけだったのだろうか。善己にとって親友といえるのは科学だけなのかもしれない。そう思うと、全身の力が抜けてしまった。もう避ける気力も湧かない。
 まばゆい光が目を焼き、甲高い音が耳をつんざく―――
 直前、その光が一瞬で消滅した。

「え?」

 次の瞬間に視界に映ったのは、全身の鎧を切り刻まれて倒れる善己と、その前に立つ翔さんだった。
 一瞬にも満たない時間に位置と体勢を変えた二人。それはまるで、ウルトラマンが現れた時のように・・・

「そんな・・・お前が・・・あのUクリーチャー・・・?」

 善己は震える手で翔さんを指さす。指の先、翔さんの左手には、見たことのない黒いグローブと、ウルトラマンと同じ四枚の刃のようなものが備わっていた。
 これじゃあまるで、翔さんが・・・

「やめとけよUクリーチャーなんて。地球人でいる方がよっぽど気が楽だぜ」

 翔さんが左手を上げると、溶けるようにグローブと刃は消えた。
 僕が気づかないうちにウルトラマンと戦ったのだろう。すっかり戦意喪失してしまった善己は、力なくその場に座り込んでしまった。

「伊達よりCIC、犯人を確保した。UCではなく地球人だったので、警察に協力を要請してくれ」

 まるで何事もなかったかのように、翔さんはキャップたちに連絡を入れる。

「待ってください。翔さん、あなたは・・・」

 あなたは、ウルトラマンなんですか。頷くと確信しているはずの疑問が、言葉にできない。
 ほんの数分前まで彼が裏切り者だと断定して、侵略宇宙人だとも疑って、そんな彼を今は何度も地球を救ってきた救世主として見ている。罪悪感と興奮が入り交じって、彼をどんな目で見ればいいのかわからなくなってきた。
 僕の言葉を待つより早く、翔さんは自分の人差し指を唇に乗せ、答えの代わりを発した。

「佐里とキャップには内緒な」

 その中に、真矢さんの名前はない。それだけで全て察してしまった。
 真矢さんと翔さんの絆。それが恋なのか仲間なのかどんなものであれ、僕が立ち入る隙などないということだ。


「明かされる姿」




そんなわけで、劾の個別回でした。

本当はもう完結編に行こうと思ってたんですが、佐里回やって劾やらないのもどうかなーって思って。

え、あと一人やってない人がいる?んーとそれはですねわけが


それにUC教団というせっかくのネタをもう使わないで終わるのも勿体ないなと思いまして。しかし善己が自分でもあれくらい作れそうなキャラなので、おまけになっちゃった感じ。

もうちょっと教団ネタも書きたかったですが、あんまり書きすぎるとラスボスが変わりそう。ラスボスはあくまでUクリーチャーであり、人間ではありません。


というわけで次回から完結編に入ります。2話くらいで終わる予定ですが、プロットも固まってないのでまだ長くなるかも。

一応17話の途中まで書いてからこれ書いたので、次回はもうちょっと早いかと。
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